第二次世界大戦において最も有名な戦車の1つに”タイガー戦車”ことドイツの「ティーガーI」があります。
連合軍のあらゆる戦車をぶち抜く強力な88ミリ砲、逆に連合軍の主力戦車の攻撃を弾く重厚な装甲、ミハイル・ヴィットマンやオットー・カリウスといったエースの活躍によりティーガーIは知名度を上げました。
今回はそんなティーガーIのプラモデル(タミヤ)を購入したのでご紹介。
そんなわけでこの記事では、以下の内容についてまとめました。
- ドイツの重戦車 ティーガーIについての解説
- タミヤの1/35スケールプラモデル「ドイツ重戦車 タイガーI型 (後期生産型)」のレビュー
- 実物ティーガーIの「後期生産型」の特徴についての解説
ティーガーIは史実において有名な戦車だけに、プラモデルにおいても人気があり、様々なメーカーがキットを販売していますが、特にタミヤの「タイガーI型」は、
- パーツ数が抑えられており、非常に組み立てやすい
- 価格も比較的手頃である
といった理由で、戦車模型に挑戦する初心者にオススメなキットの一つで、戦車プラモデルを作りたいが何を作ろうか迷ってる人も是非参考にしていただきたい。
ドイツの重戦車 ティーガーIとは?
それではまず、今回作るプラモデル戦車のモデルとなる、ドイツの重戦車「6号戦車 ティーガーI」について解説していきます。
連合軍から恐れられたティーガーI
ティーガー戦車(あるいはタイガー戦車)という名前を聞いて、「あー、聞いたことあるわ」となる人は、ミリタリーマニアでなくても一定数いるのではないかと思います。
もっというと、「戦車」と聞いて真っ先に出て来るのがティーガーって人もいるでしょう。それくらい知名度のある戦車なのです。
圧倒的な火力と重装甲で連合軍の戦車を薙ぎ払ったドイツの重戦車「ティーガー」は、先述の通り、第二次世界大戦で使用された戦車の中で最も有名な戦車の1つといえます。
あまりに強力な戦車であるために、第二次世界大戦をテーマにした映画やゲームでも登場し、場合によってはラスボスや最重要兵器といった扱われ方をしています。
従来の戦車とは異なる設計哲学に基づく「重戦車」
従来のドイツ戦車は攻・守・走の均衡を保つ「バランス型」設計となっており、たとえ性能面で敵戦車に劣ったとしても「戦術」でカバーするという運用方法をとりました。
しかし、フランス戦線における連合軍の重戦車(ルノーB1、マチルダII歩兵戦車など)を撃破するには、当時のドイツの主力戦車である3号・4号戦車(短砲身)では非力でした。
連合軍の重戦車に対する自軍の戦車の火力不足を不満に思ったヒトラーは、それら重戦車に対抗するべく新型戦車の開発を命令します。
試行錯誤の末に誕生した「ティーガー」は、従来の設計哲学だったバランス型ではなく、機動力を犠牲に装甲・火力を大幅に強化した重戦車となりました。
ポ●モンで例えるなら、攻撃力と防御力に努力値振って素早さを捨てるようなもの。
8.8cm高射砲を再設計した強力な主砲を搭載
ティーガーIの主砲は、連合軍に恐れられた”アハトアハト”こと「8.8cm Flak 36」と並行して開発が行われた戦車砲(=Flak36の派生ではない)である「8.8 cm Kwk 36 L/56」を搭載しています。
この8.8cm Kwk36は、連合軍の主力戦車(T-34、M4中戦車、チャーチル歩兵戦車など)を1,600m以上離れた場所から撃破出来たと言われています(実際の戦車戦闘はもっと近距離で行われていました)。
走る鎧 装甲は最大で100mm!
搭載する戦車砲に次いで注目されるのは、敵戦車の砲弾から搭乗員を守る「装甲」です。
ティーガーIの装甲は、
- 車体前面 : 100mm
- 側面・後方 : 80mm
- 砲塔前面 : 120mm(ただし鋳造)
…となっており、ドイツで最も生産されたといわれる「4号戦車」の装甲でも最大50mm(F型)というのを加味すると、まさに「鉄壁」と呼ぶに相応しい重装甲でした。
この鉄壁の鎧は、連合軍の主力戦車だったT34やM4中戦車では、真正面からではゼロ距離射撃(砲の仰角が0度の状態での射撃)でも貫通できなかったと言われています。
とはいえティーガーIは完全な無敵戦車というわけではなく、ソ連のIS-2や英国のシャーマン・ファイアフライの主砲で撃破されたり、複数の戦車に囲まれて袋叩きにされて撃破されたりします。
デカイならではの短所も
強力な戦車砲を搭載し、強固な装甲を持つティーガーI。
それらは対戦車戦闘において絶大な力を発揮しましたが、対価として重量が増加し、4号戦車の2倍以上の57トンという重量は、機械的信頼性を大きく損ねるもので、
- 足回りに大きな負荷を掛け、履帯、転輪、軌道輪、変速機の消耗が激しい。
- 履帯も転輪も大きく重い(履帯は1コマ30kg!)ので、修復に時間がかかった。
- 整備を怠ったり無茶な運転するとすぐ故障する。
- 故障したティーガーIを牽引するのに18t半装軌式牽引車(ドイツ軍最大の重牽引車)3台が必要だった。
- 移動には列車を使用したが、725mm幅の履帯が大きすぎるので輸送時は520mm幅の履帯を使用。
- 重すぎるので橋が渡れない。
- 作るのに他のドイツ戦車の2倍時間がかかる上に、コストが掛かり過ぎる。
などなど、「デカい」・「重い」ならではの不具合もありました。
…が、ミハエル・ヴィットマンやオットー・カリウスを始め、多くの”エース”の存在もあってか、ティーガーIは連合軍に大きなトラウマを与え、遭遇したら戦わずに逃げ出すほど脅威な存在でした。
なお、57トンのティーガーIですら重量による問題がたくさんあるというのに、
- 火力・装甲をさらに強化した”キングタイガー”の異名を持つティーガーII(69.8トン)
- ティーガーIIをベースに、前面装甲250mm、12.8cm対戦車砲を搭載した駆逐戦車ことヤークトティーガー(75トン)
- 重量188トンという、もはやギャグの領域に入りつつある超重戦車マウス
…と、ティーガーIを上回る重たい重戦車を開発するのだから、ドイツには夢がある(いずれの車輌も超重量による故障に悩まされていた)。
以上が実物ティーガーIの大まかな説明になります。
タミヤのプラモデル「ドイツ重戦車 タイガーI 型 (後期生産型)」 のレビュー
ここからは本題であるプラモデルの方のティーガーIをレビューしていきます。
史実において超有名な戦車だけにティーガーIはプラモ愛好家の間でも人気が高く、様々なメーカーが様々なタイプのティーガーIのキットを出しています。
そんな中で今回購入したのはタミヤの「ドイツ重戦車 タイガーI型 後期生産型」。
1989年12月に販売が開始されたモデルで、かつてタミヤのミリタリーモデル氷河期(20年近く新作が出なかった)をV字回復させたキットとのこと。
初心者から上級者までオススメなキット
パーツ数が抑えられていて初心者でも作りやすい一方で、溶接跡などのディテールはしっかり再現されており、普通に組み立てるだけでも十分なクオリティです。
ただ、タミヤのキットは「組み立てやすさ」を考慮していることから、パーツが実際の1/35よりも肉厚になってたり、工具の留め具のネジが無かったりと、より細かい特徴はデフォルメされてます。
そのため、モデラーは
- ツィメリットコーティングを施す
- 溶接跡を追加する
- 被弾痕(バトルダメージ)をつける
- 車載工具(OVM)の留め具の蝶ネジを追加する
- アフターパーツを使ってディテールアップをする
…などなど、デフォルメされている部分を”自己流”にカスタマイズして、臨場感あふれるリアルなティーガーIを作り上げます。
そういった点からタミヤのタイガーI型は初心者はもちろん、ディテールアップに拘る中・上級者にも愛されるキットであるといえます。
戦場で大きな影響力をもつティーガーIですが、模型業界(特にタミヤ)でも大きな影響を与えているようですね。
ド迫力な箱絵
こちらがタミヤのタイガーI型(後期生産型)のパッケージ。大きな車体に長い砲身、重戦車だけに迫力満点である。組み立てる前からワクワクが止まらない。
箱絵のティーガーには「ツィンメリットコーティング」が施されておりますが、パーツにコーティングのモールドは無く、各々で再現します(方法は説明書に記載)。
実はこのキットは4作目のクーゲルブリッツを作る途中で「そらぁ戦車言うたらティーガーやろ」と脳内でささやき戦術をするので、こっそり購入しておきました。
しかし、その後ケーリアンやメーベルワーゲン(試作型)といった対空戦車の製作が続いたため、しばらくお蔵入りに。先日ようやくメーベルワーゲン(試作型)が完成したので製作に入ることができました。
さて、前置きが長くなりましたが、箱を開けてキットの中身を見ていきましょう。
説明書は2種類入ってた
今回のキットには2種類の説明書が入っていました。
まずこちらは塗装例やデカールの貼り付け位置について記載されている説明書。
両面印刷で、裏面にはツィメリット・コーティングの方法や、デカールの貼り付け方、付属する戦車長のフィギュアの組み立て・塗装方法について記載されています。
タミヤのタイガーI型が販売された当時(1989年12月)はポリエステルパテとコーティングブレードではなく、タミヤパテと5ミリ幅のヘラでコーティングを再現していたようです。
そしてこちらが組み立て説明書。
ティーガーIの組み立てはもちろん、車体に装備される工具類などの細かい塗り分けで使用する塗料についても記載されております。
ざっと目を通してみたのですが、転輪や履帯はしんどそうな反面、それ以外の組み立てはわりと簡単そうに見えました。
パーツランナー
続いてパーツがまとまったランナー。ざっと見た感じ、パーツランナーは4袋。
「重戦車」であるにもかかわらず、パーツの量が抑えられており、初心者でも臆することなく組み立てられそうです。
…というより、一番最初につくった1/48スケールの「4号対空戦車 ヴィルベルヴィント」の方がパーツランナー多い気がします…気のせい?
履帯は連結式
こちらは履帯のパーツ。
履帯は1コマ1コマ連結するタイプになっているので、戦車プラモが初めての人やベルト式履帯しか使ったことが無い人は戸惑うかもしれません。
私は過去作の「クーゲルブリッツ」や「ケーリアン」で連結式履帯は経験しているので、多分大丈夫かと思いますが、自信のない方は製作動画などを参考にしましょう。
また、ランナーから切り離す作業は億劫になりますが、押し出しピン跡がランナー側についているのでドラゴンの「マジックトラック」と違い、履板の処理は不要。
デカール
組み立て・塗装が終わってから車体に貼り付ける「デカール」は気になるポイントの一つ。
メーカーやキットによってデカールの内容は様々で、国籍マークのみだったり、複数種類の砲塔番号や部隊マーク、キルマークなど多彩なデカールが用意されていたりと千差万別。
今回のティーガーIのデカールは上の写真のように、ドイツの国籍マークである鉄十字と5種類の砲塔番号、505重戦車大隊の騎士マークが付属。
ちなみに砲塔番号「007」は、戦車138輌を撃破したエース「ミハエル・ヴィットマン」が最期に乗ったティーガーIの番号とのこと。
また、上の写真とは別に予備(?)の505重戦車大隊の国籍マークがついてました。
車体下部パーツ
ティーガーIの基盤となる車体下部のシャーシ。
バスタブ状になった一体成形のシャーシになっており、ここに履帯や転輪、前後のパネルなどのパーツを取り付けて車体下部を組み上げていきます。
ティーガーは「トーションバー・サスペンション」という、細長い金属棒のねじれを利用したサスペンションを使用していますが、車体内部にはそういったトーションバーのモールドなどはありませんでした。
パーツの加工が得意な人やこだわりたい人は、サスペンションや車体下部に穴を開けて真鍮線を通して可動式にしてみると面白いかと思います。
以前作った「ケーリアン」とティーガーIのシャーシを並べてみます。
ケーリアンは5号戦車こと「パンター」をベースにした対空戦車なので、4号戦車よりも大きいですが、こうやって並べてみるとティーガーIは更に大きく、完成時のサイズが気になるところです。
ティーガーIの”後期型”の特徴
戦車を始めとする兵器もいってみれば「工業製品」なので、使っているうちに問題点や改善点が出てきます。
ティーガーIも例に漏れず、使用する過程でそういった問題が明らかになっていき、それらを改善するために、様々な仕様変更が繰り返し行われてきました。
そういったことから、一言にティーガーIといえど生産時期によって特徴が異なり、それらを区別するために、主に以下のような生産時期によって分けられます。
- 極初期型(1942年5月~1942年12月)
- 初期型(1942年12月~1943年7月)
- 中期型(1943年7月~1944年2月)
- 後期型(1944年2月~1944年3月)
- 最後期型(1944年3月~生産終了まで)
一方、タミヤの1/35スケールのティーガーIでは、以下の4種類がプラモデルとして製品化されており、上記の5つの生産時期をカバーしています。
- 極初期生産型(アフリカ仕様)
- 初期生産型
- 中期生産型
- 後期生産型(最後期型も作成可)
今回購入したタミヤのタイガーI型は「後期生産型」なので、実物ティーガーIの後期型や、タミヤのタイガーI型の「後期生産型」の仕様や特徴について解説します。
転輪が「鋼製転輪」に変更された
ティーガーI 後期型の最も大きな変更点は、ゴム縁の転輪から「鋼製転輪」に変わった点にあります。
ドイツ戦車の転輪は、緩衝材として転輪の外周にゴムを装着したものを一般的に使用してきました。
しかし、このゴムは高速で移動すると外れやすいという欠点があります。
特にティーガーやパンターのように転輪を挟み込むように配置してる車両では、内側にある転輪のゴムが外れると、修理するのに両隣の転輪も外さなければならず、負担が大きかった。
また大戦後期にもなるとドイツでは資源の節約が急務となり、戦略物資である「ゴム」もまた節約対象の一つでした。
そのため、ティーガーIの後期型では、転輪は従来のような外周がゴムになっているものではなく、「鋼製転輪」と呼ばれる、転輪内部にゴムリングを内蔵した転輪を採用。
鋼製転輪はゴム縁の転輪と同等の緩衝効果があり、戦略物資であるゴムの節約もできるという優れたものでした(ただし、代償として走行音は大きくなったそうです)。
プラモデルにおける「鋼製転輪」のメリットは転輪の外周を塗装しなくても良いという点にあり、指先の微細なコントロールが要求される転輪のゴム部分の塗装を省略出来ます。
単純に細かい塗装が一つ省けるというのはもちろん、転輪のフチを塗装しなくていいので、「塗装」を考慮した足回りの組み立て(=ロコ組み)が不要という点も初心者にとってありがたい。
転輪の配列が変更された
ティーガーIの後期型は、鋼製転輪の採用と同時に”転輪の配置”も変更されています。
トーションバー・サスペンション方式で、1本のトーションバーに複数の転輪を取り付けるという「千鳥式配列(オーバーラップ転輪)」はそのままで、配列が変更されており、それに伴い転輪の数も減っています。
毎度ながら大雑把なペイント作成図で恐縮ですが、中期生産型までのティーガーIは上の図のように、1つのトーションバーに3つ転輪が装着されていました。
この図を見ながら、最も内側にある転輪にトラブルが発生し、そいつを修理するために転輪を取り外す作業を想像して欲しい。
一番奥の転輪にたどり着くためには、隣接する8つの転輪を外さなければならず、整備・修理に相当な時間と負担がかかることが想像できます。
特に東部戦線においては、泥や雪が転輪の間に挟まったまま凍って動かなくなることがあり、その弱点をつけこんだソ連兵は、すぐに稼働できない早朝を狙ったという。
そういったことから、あえて外側の転輪を外した車両もあったそうです。
一方で、今回作る「後期生産型」では転輪の配置および数が上の図のように変更されています。従来まで1本のトーションバーに3本ついていた転輪が2本に減ったのがわかります。
数が減ったことによって
- サスペンションの負荷が減る
- メンテナンスやトラブル時に外す転輪の数が減る
- 鉄道輸送用の520mm幅の履帯(通常は725mm)を装着する際に、外側の4枚の転輪を外す手間が省ける
- コストダウン・生産性向上
といった利点があります。
また、プラモデルにおいては、単純に転輪の数が減ったことで、切り離し、整形、接着といった作業数が減るといったメリットがあります。
転輪は戦車模型で最初の関門(数が多いので大変!)なので数が減ると助かります。
「最後期型」仕様にも出来る
これはタミヤの「タイガーI型 後期生産型」の話です。
「後期生産型」とあるものの、説明書の指示に従って特定のパーツを交換したり、特定の加工を施すことで、「最後期型」仕様を再現することも可能。
実物ティーガーIにおける最後期型の特徴は、
- 砲塔上面に対歩兵用の「Sマイン」という兵器が装備
- 主砲の照準器が単眼式のものに変更
- 主砲マズルブレーキがティーガーIIと同じ小型軽量のものへ変更
- 砲塔上面にピルツ(エンジンを交換するための簡易2tクレーンを取り付ける基部)の追加
といった変更がなされています。このうち、タミヤの「タイガーI型 後期生産型」では、
- 主砲のマズルブレーキ:別パーツによって再現
- 主砲の単眼式照準器:主砲防盾パーツの穴を1つだけ開けることによって再現
- 砲塔上面のピルツ:最初からパーツにモールド済み(後期型を選択する場合は除去する)
といった形で最後期型を再現できます。作りたい(再現したい)車両に合わせて選択すると良いでしょう。
まとめ 初心者から上級者までオススメなキット
ということで(実物車両の紹介が長くなりましたが)、次回から作っていくティーガーIについてざっくりと紹介してみました。
「対空戦車」ばかり作ってた私にとって初の「戦車」であり、何もかもが初となるティーガーI。
タミヤのキットなので組み立ては比較的容易で、実際に説明書を読んでみても簡単そうだったので、「まぁ問題なく作れるっしょ」という認識です。
また、先日買った戦車プラモ製作の本「仲田師匠のプラモデル道場 エアブラシの使い方」では、このタミヤのタイガー1型(後期生産型)を題材に解説しているので、参考にしながら作ろうと思います。
繰り返しになりますが、ティーガーIが有名な戦車ということはもちろん、タミヤのキットゆえに作りやすく、それでいてディテールも凝っている。
そういったことからプラモデル初心者はもちろん、ジオラマなどを手がけるような上級者にも愛されるキットだと私は思います。
↑というわけで、次回から製作を開始します。まだまだ初心者ですが、どうか生暖かく見守ってやってください。