第二次世界大戦時のドイツ戦車の一つに「パンター(V号戦車 パンター)」という中戦車があります。
このパンターは、それまで主力だった3号および4号戦車では撃破が困難だった「T-34」を始めとするソ連の戦車に対抗するため開発されたもと言われています。
今回はそんなパンターD型の試作2号車である「パンターD型 V2」のプラモデルについてレビューします。メーカーはドラゴン(品番:DR6822)
キットの内容についてはもちろん、量産型のパンターD型との違いについても触れてみました。
パンターD型 V2 はどんな戦車?
先述の通り、今回作る「パンターD型 V2」は、V号戦車 パンターの試作型(試作2号車)となります。
「V号戦車 パンター」については説明すると長くなるので割愛しますが、ザックリ言うと、T-34を始めとするソ連の戦車に対抗するために開発された戦車となります。
…ザックリ過ぎですかね? もうちょっとだけ誕生経緯について触れてみます。
3号・4号戦車に代わる主力戦車の開発計画「VK20.00」が開始
第二次世界大戦勃発のきっかけとなる「ポーランド侵攻」が始まる前年(1938年)、ドイツでは主力だった3号・4号戦車の後継種となる20トン級戦車の開発(計画名称:VK20.00)が進められていました。
この計画はダイムラー・ベンツがVK20.01(III)、翌年1939年にはクルップ社がVK20.01(IV)、さらに1940年にはMAN社も計画に参画します。
東部戦線で「T-34」と遭遇する
しかし、1941年から独ソ戦が始まり、ソ連と戦うことになるとそれまでの「電撃作戦」が通用しなくなります。
ソ連の主力戦車「T-34」を相手にドイツの主力戦車だった3号・4号戦車では歯が立たず、苦戦を強いられます(T-34ショック)。
特に1941年10月に第4装甲師団がムツェンスク(ロシア南西部オリョール州の都市)の道中でT-34により大量の4号戦車を喪失したことで、秋山殿じゃない方のグデーリアンは東部戦線の戦車戦についての調査を要求します。
特別戦車委員会が設立され、T-34の調査が行なわれる
そういったことから、後に「特別戦車委員会」なるものを設立し、ポルシェ、ラインメタル、ダイムラー・ベンツ、クルップ、MANなどの博士や技師などを東部戦線へ派遣し、鹵獲したT-34の調査をします。
そして、調査の結果、既存の設計思想ではT-34に対抗できないということを秋山殿じゃない方のグデーリアンに報告します。
調査結果により、VK20.00は「VK30.02」へと変更される
その結果、技術者は新型戦車の開発に関して、以下のことを要求しました。
- 敵の射程外から敵戦車を撃破できる火砲の搭載
- 装甲の強化
- サスペンションの改善
- 幅の広い履帯の採用
- 大火力エンジンを搭載
これに対しグデーリアンは当初、「T-34に対抗するためにはT-34のコピーを作れば良い」と示唆しました。
しかし、T-34が採用するアルミ合金製のディーゼルエンジンを十分な数だけ製造するのが困難であるという理由から陸軍兵器局から却下されました。
また、20トン級の戦車ではT-34に対抗するために必要な装甲や主砲が搭載出来ないため、VK20.00の計画・開発は中止となり、30トン級の中戦車として変更され、計画名称も「VK30.00」に変わります。
そしてダイムラー・ベンツ社はVK30.01(D)、MAN社はVK30.02(M)という計画名称が与えられ、両者は再び開発を進めました。
MAN社の案VK30.02(M)が採用される
上の画像のダイムラー・ベンツ社案(画像下)はT-34に酷似した外観となっているのに対し、MAN社案(画像上)は我々がよく知っているパンターの原型になっています。
この2つの会社の設計案が提出されますが、最終的に採用されたのはMAN社の案である“VK30.02(M)”でした。
そしてこのVK30.02(M)はパンターA型と名付けられましたが、後にパンターD型と変更されます。
パンターD型の試作2号車がパンターD型V2
そして生まれた「パンター D型」は、1943年1月から9月にかけてMAN社、ダイムラー・ベンツ社、ヘンシェル社、MNH社などによって842両が生産されたパンターの最初の型となります。
その中でも今回購入した「V2」は、そんなパンターD型の試作2号車となり、パンターD型の原型といえます。…V2ロケットが付いてるわけではありません。
ドラゴン「パンターD型 V2」のレビュー
というわけで本題である購入したドラゴンの「パンターD型 V2」の中身について見ていこうと思います。
このパンターD型 V2は2017年正月のホビコレ福袋を買った時に入ってたキットの一つでした。
しかし、当時作ってたヘッツァーが出来上がってから、マウス、フラックワーゲン、E-100 対空戦車、4号戦車 J型、そしてキングタイガー。
…といった具合に、福袋のキットそっちのけで次々にキットを買っては作っていたため、常に後回し状態でした。
つまり手に入れてから2年が経過し、ようやく製作に入れるというわけです。積みプラですねぇ…。
ということで開封して中身を確認します。
パーツランナーが15点、砲塔パーツと車体下部パーツ、そして履帯(ベルト式)、デカール、そして説明書という内容。
ドラゴン(あるいはサイバーホビー)のキットでよく見かける「マジックトラック」やエッチングパーツ、その他ボーナスアイテムなどは同梱されず。
ちと寂しい内容ではありますが、その反面パーツが全てプラだし履帯もベルト式ということなので組み立てやすいキットだと思います。ちょっとパーツが細かくなったタミヤのパンターだと思えば大丈夫。たぶん。
車体下部のパーツ
では、気になるパーツを見ていきます。まずは足回りから。
車体下部シャーシ
こちらは車体下部シャーシ。
従来の戦車プラモと同じようにバスタブ形状になっていて、ここにサスペンションやら転輪やらリアパネルといったものを作り足回りを形成していきます。
ただ、シャーシの前部にははめ込み式の溶接跡のモールドがありますが、説明書によると、この溶接跡のモールドは消せとあります。
ちなみにパンターD型の車体前部は装甲板の凸凹を噛み合わせて溶接するようになっています。
一方でパンターD型 V2の箱絵を見てみると、車体前部の噛み合わせは見当たらず、4号戦車の車体前面装甲板みたいな面溶接となっています。量産D型とは溶接方式が違うようですね。
また、車体下部シャーシだけでなく、リアパネルや最終減速機カバー基部などもパーツは従来のパンター系列から流用しているけど、V2の仕様に適応させるべくパーツの一部をカットする作業が発生します。
…さっき『ちょっとパーツが細かくなったタミヤのパンターだと思えば大丈夫』とか言ったけど、やっぱドラゴンはドラゴンだったわ。
履帯はベルト式(DS履帯)
こちらは履帯。一本物のベルト式です。
連結式履帯と比較すると「たるみ」などの表現に乏しいため、何かしら手を加える必要がありますが、塗装してから取り付けることが出来るので連結式履帯でやってた「ロコ組み」といった作業が不要。
履帯のモールドはしっかり入ってるし、センターガイドの穴も再現されているので、こだわらない限りはアフターパーツに頼らなくても大丈夫そうです。
正直、組み立てやすさ(=面倒くさくない)ならこのベルト式履帯です。ここ最近はずっと連結式ばかり扱ってきたので久々な気がします。今回は楽に作れそうだ。
ただ、V2には生産型パンターD型(1943年5月以降)にみられる「シュルツェン」が無いため、履帯は丸見えです。
何かしらの方法で「履帯のたるみ」を再現しないとちょっと残念な足回りになりそう。
転輪
こちらは走行転輪。
今回のV2のように初期パンターの転輪は18本のボルトが使われていましたが、後に転輪のゴムをしっかり固定するために24本に増やしたとのこと。
組み立てにおいては何の影響もありませんが、実車を忠実に再現しています。
こちらは起動輪ですが、後ろに置いた比較用の「V号対空戦車 ケーリアン」と比べて形状が違うのがわかります。
V2だし、パンター初期の起動輪だろうなと思って画像検索してみるも、スポークが肉抜きされたような形状の起動輪は見当たらず。
どうやらこの起動輪もまた試作パンターに見られる特徴のようです。
車体上部のパーツ
こちらは車体上部パーツです。
参考として我が家唯一のパンター系列「ケーリアン」の車体と並べてみましたが、そもそもD型(V2)に対してケーリアンはA型以降の車体なので、比較対象がおかしいというオチに…。
ただ、パッと見ても操縦手・通信手ハッチの穴の角度が違ったり、車載機銃用のクラッペがあったりと、DとAとの違いが見て取れます。
砲塔・砲身
続いて砲塔。
先述の通り、このパンターD型 V2に見られる特徴の一つとして、キューポラ用の張り出しが砲塔左側面にあります。ボコッとしてる部分ですね。
そしてこちらは砲身とマズルブレーキ。左右張り合わせて作るタイプとなります。
ただ、マズルブレーキを見てみると、箱絵の丸っこいものとちょっと違う。
念のため説明書を見ると、一度砲身を張り合わせた後、マズルブレーキ部分をぶった切って、マズルブレーキパーツ(丸いタイプ)をくっつけるというなかなかファンキーな仕様でした。
デカール
こちらは付属するデカールの内容。
毎度おなじみドイツ国籍マークのバルケンクロイツ2つと「IIN 0687」と書かれたもの、白い帯のようなもの、そして目立たないですが「2」と書かれたものがあります。
この「2」というのは試作2号車を表すものだと思います。車体上部正面装甲に貼り付けます。
そして車体下部正面に白帯のデカールを張った上にINN 0687のデカールを貼るように支持されています。
ただ、実物のパンターD型 V2を見てみると、この「INN 0687」という数字は、車体にマーキングされたものではなく、細長いナンバープレートをワイヤーで吊るしてあるようです。
このデカールを使う時はそのあたりも念頭に入れておこうっと。
製作は簡単かも?
ドラゴンを始めとする海外メーカーのキットはパーツ点数が多かったり、パーツそのものが肉薄で扱いが難しかったりと、初心者向けではありません。
しかし、今回のパンターD型 V2は、ドラゴンの中では製作難易度が低いと思いました。その理由を以下にまとめます。
金属パーツがない
先述の通り、扱いが難しい(細かい作業や組み立てにコツがいる)エッチングパーツやマジックトラック(連結式履帯)といったものがありません。
なので、中・上級者にはちょっと寂しいないようかもしれませんが、逆に言うと凝ったパーツが無いので凝った作業もいらないということになります。
なのでプラスチックパーツを接着するという作業にだけ専念できるので、パッと見た感じ、製作は簡単そうでした。(一部パーツのカットは除く)。
OVMもない
通常、戦車の車体の側面などには修理やメンテナンス用のOVM(車載工具)が搭載されていますが、パンターD型 V2にはそのOVMが全くありません(後部のジャッキだけ)。
OVMもまた細かいパーツであることはもちろん、その細かいパーツを塗り分けをしないといけないので、これがなかなか手先の神経を使う作業だったりします。
そういったOVMがない分チマチマした作業もないのでササッと作れそうですね。
迷彩塗装が不要
また、箱絵では迷彩塗装が施されていましたが、塗装例を見ると単色のバリエーションもいくつかありますし、何より実物のV2の写真を見ると迷彩塗装がされているようには見えませんでした。
なので、単色ダークイエロー(ドゥンケルゲルプ)で塗装するだけで実車を再現できるので、エアブラシを持っていない人にもありがたい。
そして私は迷彩塗装だけで1ヶ月以上かかるので特にありがたい。
ウェザリングやバトルダメージといった技法もいらない
「いらない」は言い過ぎかもしれませんが、パンターD型 V2は試作2号車ということで、戦場に行かない戦車となります。
なので障害物にぶつかったり、被弾などのダメージはありませんし、戦場にいかないので雨や砂埃、硝煙などで派手に汚れることもありません。
凝りに凝ったウェザリングやバトルダメージの再現は不要ということです。でも履帯は汚しておいたほうが良いかも。
…味気ない?
- エッチングもマジックトラックもないから組み立ては簡単
- 迷彩塗装はいらん
- バトルダメージもいらん
- ウェザリングは最小限で
ということで、作るのは簡単ですが、逆にちょっと味気ないキットになるんじゃないかと思うかもしれません。
なにしろ”試作”車輌ですから量産型と一緒くたに考えるとそう思うかもしれませんが、試作車輌には量産型にはない特徴や良さもきっとあります。
たとえば、知識があれば「ここは量産型と違う部分だ」という違いを組み立てながら発見するが出来ます。
組み立ては簡単かもしれませんが、組み立てを楽しむためにはパンターに関する相応の知識が要求されるキットです。
まとめ
ということでドラゴンの「パンターD型 V2」のキットの内容を紹介しました。
先述の通り、このV2はパンターD型の試作2号車ということで、量産型にはみられないような仕様が再現できます。
迷彩塗装やバトルダメージ、ウェザリングといった様々技法をこらして戦闘で消耗していく様をリアルに再現するのが戦車模型の醍醐味ですが、今回のV2はあくまで「試作」。
なので、戦闘には参加しない戦車というところを意識して作っていきたいです。