どうもこんにちは。先日無事にマウスが完成したので、また新しい模型を作ろうと思います。
今度作る模型は、「フラックワーゲン」と呼ばれる、ドイツが試作した対空自走砲(自走式対空砲)です。
戦車模型を作らない人(作ってる人でも?)だと「なにそれ?」ってなるマイナーな車種ですが、一方で戦車が出るゲームをやってる人なら「対空トースター」といえば大体通じたりするアレです。
特徴としては、前方を除く三方を装甲板に囲まれた車体に、8.8cm高射砲(74口径 8.8cm Flak41)を搭載したユニークな車輌です。
ということで今回はプラモデルの「フラックワーゲン」や、そのモデルとなった対空トースターこと「Pz.Sfl. IVc」という車輌について詳しくご紹介していきます。
モデルとなった車輌について
まずはこの「フラックワーゲン」のモデルとなった車輌についてざっくりと解説していきます。
「フラックワーゲン」はブロンコが付けた名称
今回購入したブロンコの模型は、製品名に「フラックワーゲン」と記載されていますが、これは実物車輌の名称ではなく、メーカーが付けた名前となります。
タミヤの戦車プラモデルで例えるなら、ドイツの駆逐戦車「ヤークトパンター」に「駆逐戦車ロンメル」という製品名が付くようなものですね。
では実際の車輌はどのような名称なのかというと、「Pz.Sfl. IVc」とか「8.8cm Flak41 auf Sonderfahrgestell」などと呼ばれています。
- Pz:Panzer(戦車)の略
- Sfl:Selbstfahrlafette(=自走砲あるいは自走榴弾砲)の略。ただ、対空車両に自走”榴弾”砲はおかしいので、“Sonderfahrgestell”(特殊車両)の略称の可能性もあり。
- IVc:IV号戦車を意味する。ただし、共通点はシャーシくらいである。
日本語訳としては「装甲自走砲4号c」とか「88mm高射砲41型搭載特殊車台」みたいな感じになるのですが、下手に翻訳するとかえってややこしくなりそうですね。
なお、ドイツの戦車や装甲車両は公式・非公式問わず、ティーガーとかパンターとかフンメルと動物の名前が付けられることがありますが、本車両は試作車両(3輌ほど)だったため、特にこれといった名称はつけられませんでした。
「マジノ線」攻略のために開発された自走砲の一つ
では、この「Pz.Sfl. IVc」はどういった車輌なのかというと、フランスとドイツの国境間に構築された対ドイツ用の要塞「マジノ線」を攻略するために開発された自走砲の一つです。
当初はこのマジノ線を攻略するために様々なタイプの自走砲が開発されていたのですが、1940年6月にフランスが降伏したため、これら自走砲たちはフランス戦線では使われず、対ソ連の東部戦線などに回されました。
で、Pz.Sfl.IVcはそんな数ある自走砲の中の「対空自走砲」タイプとして開発され、クルップ社によって作られました。

最初の1号車は”アハトアハト”でおなじみの「8.8cm Flak18/36/37」を搭載したものですが、変速機のトラブルや、連合軍の空襲により、開発の遅延・生産計画の見直しの結果、運用に適さないと判断され量産化されず。
しかし、その後「戦車部隊に付随できるFlak41乗せた自走砲作れや」とアルベルト・シュペーア軍需大臣の指示により、クルップ社はより強力なラインメタル社の高射砲である「8.8cm Flak41」を搭載した2号車を作りました。
Wikipediaによると、この2号車は開発が中止された後に放置され、最終的にスクラップになったという。…解せぬ。
また、1号車か3号車のどちらかは第304高射砲大隊に配属され、イタリア戦線に投入されたそうです。
Pz.Sfl. IVcの特徴
なお、このPz.Sfl. IVc自体の特徴は何かと言われると、やはり車体の三方向を覆う装甲板にあります。
これらは乗員を保護するためのものでありますが、戦闘時はパカッと展開されて兵士たちの足場になります。

この装甲板は移動時は立てて乗員を保護しますが、射撃時には砲の可動域や射界を確保するために上の写真のように装甲板を展開します。

似たような対空車両としては「4号対空自走砲 メーベルワーゲン」があります。いずれにしても戦闘時は装甲板を展開するので、乗員がむき出し状態になるのが難点です。
メーベルワーゲン(4号対空戦車)の場合、改善策として全周囲を覆う砲塔の対空戦車が次々開発されますが、巨大な高射砲である8.8cm Flak41で同じことをする場合、車体単位で変更しないと厳しいでしょうね。
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あだ名は「対空トースター」

戦車が出るMMOゲーム「World of Tanks」にもこの車輌が登場し、プレイヤーからは「対空トースター」、あるいは単に「トースター」という愛称で親しまれています。
先述の通り、元の車輌は対空自走砲(自走式対空砲)として航空機を撃墜するために開発されたものですが、残念ながらWoTでは航空機が登場しないので、専ら対戦車自走砲として扱います。
ただ、元が対空自走砲であり、対戦車戦闘を想定したものではない(一応対戦車用の砲弾はあるが、あくまで対空自走砲です)ので、装甲板は展開せずに走行時のフォルムですが、防御力は無いに等しく、狙われたらまず生還不可という。
しかし一方で、この車輌に最終的に搭載される砲である『8.8cm Flak41 L74』はドイツ最強の戦車であるキングタイガーに匹敵すると言われており、火力だけ見たら申し分ナシとのこと。

また、搭載しているのは戦車砲ではなく「高射砲」ということで、砲身は90度近く上に向けることが出来る。
砲身を上に向けられるということは、高所に位置する敵戦車を狙えたり、坂道を下るときに遠方を狙えるという利点があります。
ただ、先述の通り攻撃できる航空機が存在しないため、上の写真のように砲身を90度上に向けるメリットは一切無いどころか、むしろ目立つため「墓標」なんて言われる始末。敵に狙われて生還不可と判断したらやってみよう。
そんなわけで独特な外観や、攻めに強く守りに弱い性能などからWoTプレイヤーに愛されている車輌なのです。誰が何と言おうと愛されているのです。
ブロンコモデル 「フラックワーゲン」徹底レビュー
お待たせしました。ここからが本題です。
次回から作っていくブロンコ(ブロンコモデル)の8.8cm Flak41 auf Sonderfahrgestell(Pz.Sfl.IVc)こと「フラックワーゲン」のキットについて紹介していきます。
パッケージ

箱の正面にはデカデカとフラックワーゲンのイラストが描かれており、その後ろには撃墜された航空機と降伏するパイロットが描かれています。
今回のフラックワーゲンは「74口径 8.8cm Flak41」を搭載したバリエーションとなりますが、これとは別に「56口径 8.8cm Flak37」を搭載したものもあります。

上箱の側面。
元の車両は4号戦車をベースにしているとのことですが、「どこらへんに4号要素あるの?」となるくらい4号戦車とは程遠いフォルムに。
足回りも4号のリーフスプリング式ではなく、ティーガーやパンターとかに見られるトーションバー式サスペンションとなっています。
このサスペンションは細長い棒状のパーツで再現されており、可動式なので実物同様のギミックを再現できます。

フラックワーゲンの特徴である装甲板は水平射撃(展開した状態)、対空射撃(半開き)、移動時(立てた状態)の3種類から1つ選んで組み立てることができます。
…最初は「上手いこと加工して3つのフォルムを1つで再現できないかぁ~」と寝言を抜かしていましたが、兎にも角にも細かいパーツが多いため、かなり厳しそうです。
また、装甲板だけでなく、搭載されたFlak41も写真を見てわかるように、かなり細かく再現されています。
細かいということは小さいパーツが多いということで、組み立てはもちろん、塗装やウェザリング、そして完成後の管理にも注意しないといけません。
…興味本位でとんでもないキットに手を出した気がしてきました。

履帯は連結式になっていますが、履板そのものを接着するのではなく、実物同様に、履板同士をピンで接続するタイプになっており、いわゆる「可動式履帯」となっています。
これによって可動式のサスペンションに合わせて履帯も動くようになり、地形に順応した足回りを再現できます。
似たような連結式の可動式履帯では「モデルカステン」のものが有名ですが、このキットにはモデルカステン匹敵する履帯が最初から付属しています。こりゃ豪華だ。
説明書や塗装例、ポスターなど

こちらは組み立て説明書。
英語、ドイツ語、中国語で記載されていますが、要所は簡単な英語なので直感的にわかるような内容となっています。
最終的にゴチャゴチャした形になるので、塗装を考慮した組み立てや、可動ギミックのあるパーツの接着には気をつけたいところです。

説明書の中身はこんな感じ。どことなくドラゴンの説明書と似ているので、ドラゴンの戦車模型を手掛けたことがある人ならそれほど苦労することはないはず。

こちらはFlak41の砲座部分の説明図。なんだか戦車模型というより工業用機械でも作ってるんじゃないかという錯覚に陥りそうです。
8.8cm Flak41には、砲弾に時限信管を取り付ける装置や、射撃管制レーダー(ウルツブルグ・レーダー)が得た、敵機の距離や速度といったデータを受信する機材も搭載されているかなりハイテクな高射砲だったそうです。

こちらは塗装およびデカールの貼り付け位置について記載された紙。箱絵と同じように、ダークイエロー一色で迷彩は施されていないようです。
それもそのはずで、この車輌は1号車が完成したのが1942年12月で、ドイツ陸軍が各兵器工場に迷彩塗装を命じたのが大戦後期の1944年8月頃です。
なので、より実物を再現するなら上の写真のような単色にすべきですが、そうでなければ迷彩塗装をしてオリジナリティを出しても面白いのではと思ったりします。
工場で正式に迷彩塗装が実施される以前も、現地改造として兵士や整備兵が車体に迷彩を施していました。

その他オマケとして、フラックワーゲンの箱絵のイラストと同じポスターが入ってました。
使いみちは人それぞれですが、額縁に入れて飾るとリア充になれるらしい。
パーツランナー

箱の中に入ってたパーツランナーをざっと並べてみるとこんな感じになりました。
ざっくり見てランナーの袋は16個あり、結構なパーツ数となります。特に8.8cm Flak41はパーツ数が半端ないだろうと予想。
せっかくなので、気になったパーツをピックアップして見ていきましょう。
側面装甲板

まずこちらは側面装甲板。先述の通り、対空射撃、水平射撃、移動時の3つのうち1つを選んで組み立てる際に、この装甲板の角度がキモとなります。
この装甲板をなんとか可動式にして3つのフォルムを1つで再現できないだろうかと考えてましたが、装甲板を支えるパーツが非常に細いので、フォルムチェンジに応じてカチャカチャ動かすのは難しいと判断。
車体上部

こちらは車体上部。
ここに装甲板や操縦手・通信手のハッチやクラッペ(視察窓)などを取り付け、更にFlak41を乗っけるまさに「土台」となるパーツ。
車体シャーシ

こちらはシャーシ部分。
確かにどことなく4号戦車の面影はあるのですが、これまで作ってきた4号戦車ベースの対空戦車たちと見比べると、全長が長かったりシャーシ後部がちょっと違ったりしていました。

そんな車体シャーシの内側はこうなっています。
この中にはティーガーやパンターなどで採用される「トーションバー」と呼ばれるサスペンションを通します。Flak41のような重たい高射砲を支えるとなれば4号戦車のリーフスプリング式じゃ無理なのかもしれません。

また、シャーシの中には履帯(履板)のパーツがギッシリ収まっていました。
先述の通り、このフラックワーゲンは連結式履帯より上位の「可動式履帯」となっており、単に履帯同士を接着するものとは組み立て方法が異なってきます。

というのも履帯同士の接続は実物と同じように「ピン」を取り付けることで行います。1組の履帯を接続するのに2つのピンを使うため、より精密な作業と時間を要するのです。
実物の履帯を繋ぐピンは1本モノなのですが、フラックワーゲンの場合だと2種類のピンを使います。これはピンのヘッド部分を再現するために形状の異なるピンを用意したのだと思います。
もっというと、1本モノの細いピンをプラパーツで再現するなんてものすごく難しいですし、それを履帯に通せなんて(耐久性を鑑みて)まず無理ですしね。
従来の履帯にはない時間の掛かるシロモノですが、その対価として履帯の動的なフォルムはベルト式履帯や連結式履帯では再現できない戦車模型における最高のギミックで、情景作品を作る場合は欠かせない存在とも言えます。
そのためマニアックな人はあえてキット付属の履帯ではなく可動式履帯(主にモデルカステン)を使用するほど。
ちなみに履帯のセンターガイドは履板と一体となっているので、モデルカステンの可動式履帯と比べると若干作業数が少ないので楽です。
砲弾パーツ

車輌だけでなく細かい情景パーツも付属しており、その1つにFlak41で使用する8.8cm砲弾や、砲弾を収納するケースなどもパーツ化されています。

ドラゴンのキングタイガー(ティーガーII)のキットに付属していた8.8cm KwK43 L/71の砲弾を横に置いて比較するとこんな感じ。
参考までに、8.8cm系列の砲弾や使用する砲については以下の通り。
- 88×571R mm 砲弾
- 8.8cm Flak 18/36/37:アハトアハトでおなじみの56口径の高射砲。
- 8.8cm KwK36 L/56:ティーガーIに搭載される56口径の戦車砲。
- 88x822R mm 砲弾
- 8.8cm Pak43:クルップ社製の71口径の対戦車砲。
- 8.8cm Pak43/1:ナースホルンの主砲。
- 8.8cm Pak43/2:フェルディナント/エレファントの主砲。
- 8.8cm Pak43/3:ヤークトパンターの主砲。
- 8.8cm Pak43/41:Pak41の砲身と砲弾を流用したラインメタル社製の対戦車砲。
- 8.8cm KwK43:キングタイガーこと「ティーガーII」の主砲。
- 8.8cm Pak43:クルップ社製の71口径の対戦車砲。
- 88×855R mm 砲弾
- 8.8cm Flak41:Flak18/36/37に代わるラインメタル社の74口径の高射砲。今回のフラックワーゲンに搭載。
ティーガーIIの71口径よりも砲身が長く、薬莢長も長い(装薬量が多い)点を鑑みると、8.8cm Flak41はキングタイガーの主砲よりも強力である可能性があります。
…まあ、Flak41の詳細スペックを見ないと何とも言えませんが。
クラッペのクリアパーツ

車体前面に取り付けるクラッペ(視察窓)の防弾ガラスはクリアパーツで再現されていました。
ドラゴンのキットでもモノによっては、クラッペやペリスコープ、車間表示灯などがクリアパーツで再現されていることがありますが、フラックワーゲンでもクリアパーツで再現されていました。細かいなぁ~。
エッチングパーツ

こちらはプラスチックでは成形出来ないくらい薄いパーツを再現したエッチングパーツ。
エンジンメッシュはもちろん、OVMの蝶ネジや、牽引装置のチェーンまで再現されており、もはやアフターパーツでは?と思うくらい充実しています。
非常に精巧であると同時に、一つ一つのパーツが小さいので、切り離したり接着するのに苦労しそうですが、それらの苦労に見合ったディテールアップが実現出来るでしょう。
デカール

そしてこちらはデカール。
おなじみの国籍マークを始め、高射砲部隊である「戦術マーク」、Flak41の射撃管制装置のメーター、さらには砲弾や砲弾ケースに貼るマーキングまで再現されています。
ただ気になったのは、砲弾や砲弾ケースに貼り付けるデカールには、8.8cm KwK43やPak43と記載されている点。
先述の通り、KwK43やPak43といった71口径に使用する砲弾は88x822R mmなので、74口径 8.8cm Flak41で使用する88×855R mmとは別物なはずです。
ブロンコがこのキットを製造した当時に資料がなかったために間違えたのか、あるいは搭載している高射砲が74口径 8.8cm Flak41ではなく、88x822R mmに対応したクルップ社の高射砲「71口径 8.8cm ゲラート42」なのか(形状からしてまず無いでしょう)。
まま、あまり深く考えても仕方ないですけどね。ひとまず今回は砲弾類は使用せず、今後Pak43(あるいはKwK43)を搭載した車両を作るときに使おうと思います。
まとめ 豪華すぎるキットです
ということでブロンコのフラックワーゲンに関して「これでもか!」というくらい書き殴ってみましたが、このキットを見て思ったのは兎にも角にも「豪華すぎる」の一言。
なぜなら履帯はモデルカステンに匹敵する可動式履帯であり、エッチングパーツも豊富で、社外のアフターパーツで代用するものがだいたい入っているからです。
強いて言えば金属砲身が付属しないくらいですが、砲身は砲身でちゃんとライフリングのモールドが入っているという徹底っぷり。
価格は5,000円を超えてしまいますが、上記の内容を考慮すると妥当なぐらいで、特に主砲である8.8cm Flak41の完成度はかなり高いので、マニアにも満足なキットであることは間違いありません。
…組み立てられるかなぁ。

ちなみに、このフラックワーゲンを次に作ろうと決めたキッカケは、よく行くツイキャスの放送でのコメント(上記画像参照)に対する放送主の返答から。
「エプロンとトースターどっちがいい?」という意味不明な質問に対し、ものすごく悩みながら「じゃぁ、トースターかな?」という返事をもらったのでフラックワーゲンにしたわけです。
↑次回からフラックワーゲンの製作に入ります。まずは足回りの可動パーツと戯れます。
↑今回購入したのは71口径 8.8cm Flak41を搭載したフラックワーゲン。
↑こちらはフラックワーゲンのもう一つのバリエーション。搭載砲が56口径 Flak 18/36/37となっています。