分厚い装甲と強力な88ミリ砲で有名なドイツの重戦車「ティーガーI」の発展型として、さらに強力な重戦車、“キングタイガー”こと「ティーガーII」があります。
ティーガーIよりも厚い装甲、連合軍のあらゆる戦車をアウトレンジから撃破できる71口径の88ミリ砲をもち、攻守ともに最強とされる戦車です。
今回はそんな最強の戦車『キングタイガー』のプラモデルを購入したのでご紹介します。
キットの内容(中身)の紹介はもちろん、各パーツを史実のキングタイガーの仕様変更と照らし合わせて紹介します。
ドラゴン『キングタイガー(ヘンシェル砲塔)w/ツィンメリット』を入手した!
今回入手したのはドラゴンのキングタイガー(ヘンシェル砲塔) w/ツィンメリット(#6303)というキット。
「キングタイガー」は数ある戦車プラモの中でも人気の車輌のひとつで、今回のドラゴンはもちろん、様々なプラモメーカーから様々なバリエーションのキットが販売されています。
そんな中でドラゴンの『キングタイガー(ヘンシェル砲塔) w/ツィンメリット(#6303)』はどういう内容なのかレビューしていきます。
キットの特徴
箱をひっくり返すとキットの特徴が記載されています。英語表記ではありますが書いてあることをざっくり訳すと、
- 達人モデラーのタッチと金型成型の技術向上によってより精巧なツィンメリット・コーティングのモールドを再現
- 砲塔後部のハッチはオープン/クローズが選択できる
- キューポラは多方向スライド成型によってリアルに再現されている
- ヘッドパットやクリアパーツによってキューポラ内部も細かく再現
- 車長ハッチはアームと別パーツになっていて、開閉選択できる
- 装填手ハッチは内側・跳ね上げ用アームも再現
- 近接防御兵器(S-マイン)は開閉状態が選択できる
- 操縦手および通信手のペリスコープはクリアパーツで再現
- 砲塔上面には2トン簡易クレーン取り付け基部「ピルツ」を再現
- 主砲のマズルブレーキはスライド成型で、内部構造も再現
- 通信手用の機銃は可動式
- エンジンデッキのグリルメッシュはエッチングパーツで再現
- ジャッキはモールドをきめ細かく再現
- ロードホイール(走行転輪)は本物を忠実に再現
- スプロケットホイール(起動輪)も実物を再現
- 1944年5月に採用された履帯「Gg24/800/300」に対応して起動輪も9歯型となっている
- ボーナスパーツとしてアルミ砲身が付属
と言った具合に、ベテランも満足できるリアルで豪華な内容になっております。
何度か仕様(内容)は変更される
このキットは発売当時から2016年ごろにかけて何度か内容の一部を変更しており、
- DSベルト式履帯が連結式のマジックトラックに変わる
- ワイヤーや一部OVMの固定具用のエッチングパーツが追加
- 牽引用アイプレートのフック(シャックル)が金属パーツで再現される
- ボッシュライトの配線を再現した金属線、砲塔後部ハッチのピストルポート用の栓を繋ぐチェーンが付属
- 8.8cm砲弾(真ちゅう製)が追加
- ツィンメリットコーティングのパターン別に2種類の砲塔後部ハッチを用意
といった仕様変更がなされているようです(上記以外にもあるかも?)。
ドラゴンモデルズ20周年を飾るに相応しいキット
このプラモデルが発売された2008年はドラゴンモデルズ20周年というおめでたい年で、ドラゴンモデルズ公式サイトの製品ページ では、
「20周年を祝うために特別なキットを出すべき!」
「その特別なキットはキングタイガー以外にねーだろ!」
みたいなことが書かれてました。おめでとうございます。
ドラゴン #6303 『キングタイガー(ヘンシェル砲塔)w/ツィンメリット』のレビュー
続いて、ドラゴンのキングタイガーのキットの中身について解説します。
これまで当ブログでは、気になるパーツ(車体や砲塔、シュルツェンなど)や金属砲身、クリアパーツなどのオマケ的なパーツ(ドラゴンでいうボーナスアイテム)をバラバラに紹介してました。
しかしそれでは順序がゴッチャになってしまうので、今回は
- 車体下部
- 車体上部
- 砲塔
といったように、セクションごとに関連したパーツを紹介します。その方がわかりやすいですからね。
また、実物車輌は生産時期によって仕様の変更があり、形状の変更や、新しい部品の追加、あるいは廃止といったものが生産過程で行われます。
プラモデルでも実物車輌の仕様変更を反映しているので、そちらについても合わせて触れていきます。
車体下部(シャーシ、転輪、履帯)
まずこちらは車体下部シャーシ。バスタブ状になっており、ここにリアパネルやサスペンション、転輪などを取り付けていきます。
サスペンションは非可動式ですが、シャーシやサスペンションに加工を施すことで可動式にすることは出来そうです。
アイプレートには切り欠きが再現
こちらは車体下部の側面装甲板を延長して穴を開けたもので「アイプレート」などと呼ばれる部分です。ここに牽引用のU字シャックルを取り付けます。
上の写真は車体後部のアイプレートですが、アイプレートは前方にもあります。
この部分はキングタイガーの生産時期によって形状が変わり、1944年4月以降生産車輌ではアイプレート上部が切り欠かれており、U字シャックルが上方に回転できるようになってます。
同様の理由で前方のアイプレートも初期と形状が異なり、前面がくぼんだような形になっています。
U字シャックルは金属パーツも同梱
こちらがアイプレートに取り付けるU字シャックル。
ボーナスパーツとして金属パーツが付属しており、金属ならではの質感はキングタイガーの重厚な質感を際立たせます。
ただ、金属シャックルにはボルトやシャフトなどが再現されておらず、あくまでアイプレートに挟むだけ。上下に動かすとズレるので角度を固定して取り付けます。
もちろんU字シャックルはプラパーツもあり、そちらにはボルトなどのモールドが入っています。好きな方を選びましょう。
起動輪は9歯仕様
こちらは起動輪と遊動輪のパーツ。
キングタイガーの起動輪は初期は18歯でしたが、1944年5月から新型の履帯「Kgs73/800/300」が採用され、それに伴い起動輪も9歯仕様へ変更されます。
今回のキットは1944年5月以降の9歯タイプの起動輪を再現しており、後述する履帯の方も「Kgs73/800/300」でした。
「Kgs73/800/300」タイプのマジックトラック
このドラゴンのキングタイガーの履帯は、初期はベルト式の履帯でしたが、後にマジックトラック(連結式履帯)へ変わります。今回入手したものはマジックトラックでした。
マジックトラックのような連結式履帯は、転輪間に見られる緩やかな「たるみ」を再現するのに適しています。
一方で、組み立てにはコツがいり、特に履帯や車体、転輪の奥まった部分をシッカリ塗装するためには、履帯や転輪を取り外せる「ロコ組み」といった技法が使われたりします。
もちろん今回”も”ロコ組みをします。
キングタイガーの履帯は後期(1944年11月~)のものを除き、主履板と副履板のダブルリンク式となっており、マジックトラックも2種類の履板が付属。
先述の通り、今回のキットでは1944年5月より採用された、副履板が1パーツの「Kgs73/800/300」タイプの履板を再現しています。
履板の表裏はこんな感じ。
ランナーから切り離したりゲート処理が不要な反面、履板内側には押し出しピンの跡があるのでこれを消す必要があります。どっちみち整形は必要。
なお説明書には何も記載されてませんでしたが、実物キングタイガーの履帯の総リンク数は片側46枚(=92枚)とのこと。
車体上部(シャーシ、フェンダー、OVM類)
こちらは車体上部パーツ。
4号戦車やティーガーIだと正面・側面装甲板やサイドフェンダーなど、やたら工程が多いですが、キングタイガーの車体上部は大きな1つのパーツで出来ています。
なので、車体上部は車載機銃、ハッチやOVM、エンジンデッキのフックやカバーといった「パーツの取り付け」が中心となります。
また、横に並べたティーガーIと比較するとキングタイガーの方が若干長い。
こちらはパンター(5号対空戦車 ケーリアン)の車体との比較。
キングタイガーこと「ティーガーII」は名前通り「ティーガーI」の発展型ですが、どちらかというとパンターを発展させたような外観となっています。
特に車体の上面のレイアウトはパンターそっくり。
サイドフェンダーは1ピース構造
こちらは車体側面に取り付けられるサイドフェンダー。実物は分割式だけどキットでは1パーツで再現。
先人モデラー様の作品を見ると、部分的に取り付けられたり、あるいは1個だけ歯抜けになってたりして、足回りを魅せるような取り付けられ方をされています。
ただ、それを再現する場合フェンダーを切断する必要があります。…ちょっと気が引ける。
ツィンメリットコーティングのモールド
このキットの特徴のひとつとして、車体や砲塔に「ツィンメリットコーティング」のモールドが入っているという点。
また、ただ単純なギザギザというわけではなく、法則性のないモールドで、人が手作業でやったような質感になってます。ドラゴンの成型技術の高さが伺えます。
また、細かいところですが、通信手用ペリスコープがある位置の前方を見ると装甲板に切り欠きが入ってます。これはペリスコープの視界改善の加工で、1944年4月以降から施されました。
ラジエーターのメッシュカバーやOVMの留め具はエッチングパーツで再現
エンジンデッキの吸排気グリルには、砲弾の破片など異物の混入を防ぐためのメッシュカバーが取り付けられており、キットではエッチングパーツで再現されています。
また、車体中央寄りの排気グリルには砲塔との段差を埋めるためのカバーがあり、そちらも同様にメッシュ部分をエッチングパーツで再現。
このエンジンデッキに関連したエッチングは初期のキットから付属していましたが、今回のキットではエッチングパーツが大幅に追加され、OVMの留め具や砲塔後部ハッチの内側にもエッチングが使われます。
エッチングパーツは非常に薄いので、スケール感を損なうこと無く細かい部品を再現でき、ディテールアップの必需品と言えます。
しかし、一方で非常に繊細な作業が求められるので、モノによっては組み立て難易度が非常に高いものもあります。OVMのクランプはその最たる例です。
でも救済措置として、エッチングパーツとは別にプラパーツもあるので、組み立てに自信のない人はそちらを使えば大丈夫。
ボッシュライトのコード用の金属線が付属
今までボッシュライト(あるいはノテックライト)のコードは伸ばしランナーやホームセンターで買った銅線などで再現してました。
しかし今回のキットではコードを模した金属線が付属するので、それを使えば簡単に再現できます。
金属線は装甲板の凹凸の形状にあわせた形状となっており、銅線や伸ばしランナーのように曲げる作業が不要です。
ただ、金属線そのものは硬く、微細な調整が難しいので、銅線(伸ばしランナー)にするかこの金属線を使うかは人次第。
砲塔パーツ(ハッチ、キューポラ、砲身)
こちらは砲塔パーツ。もちろん側面にはツィンメリットコーティングが施されています。
砲塔上面には「ピルツ」と呼ばれる簡易2tクレーンを設置するための基部が3ヶ所にあります。
このピルツは1944年6月中旬に実装されたもので、ポルシェ砲塔の終わり頃から追加され、ヘンシェル砲塔では最初から付いてたそうです。
ポルシェ砲塔とヘンシェル砲塔について
キングタイガーの大きな仕様の違いとして2種類の「砲塔」があります。
初期の量産型50輌に採用された、砲塔前面が丸みを帯びた「ポルシェ砲塔」と、それ以降の「ヘンシェル砲塔」のことです。
ポルシェ社が設計した試作重戦車「VK45.02(P)」用にクルップ社が砲塔を用意したのが始まりでしたが、結局VK45.02(P)はボツ案となり、残った砲塔は初期のキングタイガーに流用されました。
しかし、ポルシェ砲塔は前方が丸く跳弾が車体上面に直撃する「ショットトラップ」を招くほか、強度の問題があるとして、1944年6月に「ヘンシェル砲塔」へ変更されました。
砲塔後部ハッチは2種類ある
なんか今回のキングタイガーのキット(最新バージョン?)では砲塔後部のハッチに並々ならぬこだわりがあるようです。
というのも、ハッチの内側のディテールがやたら凝ってたり、ハッチもコーティングのパターン別に2種類用意されてたり。
まずひとつ目がこちら。ツィンメリットコーティングが縦横に入ったパターン。
そしてもう一つが円を描くようにコーティングが刻まれたパターン。
ドラゴンの戦車研究者によると、キングタイガーの後部ハッチのコーティングは2パターンあり、モデラーに選択の余地を提供するために2種類用意したとのことです。
また、ハッチ下部に細長いトーションバーがあり、ここにアーチ状の装甲カバーが1944年8月から追加されました。キットでは装甲カバーの有無を選択します。
ピストルポートのチェーンが付属
また、砲塔後部ハッチには銃眼(ピストルポート)があり、後方からの攻撃に対し、ピストルポートの栓をあけてMP40などの短機関銃で迎撃することが出来ます。
このピストルポートには未使用時には穴を塞ぐ栓があり、この栓の脱落を防止するためのチェーンが付属しています。
これだけでも十分豪華ですが、ハッチ内側のディテールもやたら細かくエッチングパーツで再現しているという。豪華すぎてハッチ閉じるのが惜しまれるレベル。
キューポラや車体のペリスコープはクリアパーツで再現
車体や砲塔のペリスコープや車間表示灯、更にはボッシュライトの中のレンズまでクリアパーツで再現されています。
ペリスコープは全体がクリアパーツとなっているので、レンズ部分はそのままですが、フレームは塗装する必要あります。
ともなると、キューポラのペリスコープは塗装後に装着したほうが良いかも知れません。前作の「4号戦車 J型」では先に取り付けたせいで塗装に苦労したので…。
キューポラも2種類ある
こちらは砲塔に取り付ける車長用「キューポラ」。
こやつもまた2種類が用意されており、上の写真では違いがほとんど分からないレベルですが、よーく見ると左のキューポラにはスリットが3ヶ所入ってます。
これはキューポラ開口部のフチから水を抜くためのもので、「ヘンシェル砲塔」に変更された1994年6月に、キューポラも変わったそうです。
金属砲身が付属
ティーガーIよりも延長された71口径の88ミリ砲「8.8cm KwK43 L71」。
説明書を見る限り、砲塔内部の見えない部分(砲架・砲尾など)まで再現されるだけでなく、なんと金属砲身まで付属しています。
私にとっての金属砲身といえば、「5号対空戦車 ケーリアン」で3.7cm高射砲の砲身を別途で購入したとき以来ですが、今回はキットそのものに金属砲身が付属するという超豪華っぷり。
クリアパーツ、マジックトラック、エッチングパーツ、そして金属砲身…。あまりに豪華過ぎる内容である。
ちなみに砲身そのものは、1944年4月より採用された「分割式砲身」を再現しています。
8.8cm砲弾がオマケでついてる
わーい、8.8cm砲弾が3つもついてたぞぉー
…ってなるオマケです。
砲弾は真ちゅう製なので薬莢部分は塗装せずそのまま使えそうです。また、薬莢底部のヘッドスタンプ部分もエッチングで再現。
せっかくなので家にあった5.56mm弾(AR-15)や7.62mm弾(AK-47,AKM)と並べてみる。さすがに1/35なので小さい。
ちなみにキングタイガーで使用される砲弾は
- 風帽付き被帽徹甲弾(旧型 8.8cm PzgrPatr39-1 / 新型 8.8cmPzgrPatr39/43)
- タングステン弾芯弾(8.8cm PzgrPatr40/43)
- 成形炸薬弾(旧型 8.8cm GrPatr39H 1 / 新型 8.8cm HIG39/43)
- 榴弾(8.8cm SprGr43)
といった4種類で、携行数は風帽付き被帽徹甲弾と榴弾で半々となっており、榴弾の代わりに成形炸薬弾を携行する場合もあります。
タングステン弾芯弾は生産数が少なく、装備しても数発程度だったとのこと。
デカール
デカールは品質に定評のあるイタリアのカルトグラフ製。
デカールのシートや説明書のマーキング例を見ると、300とか333とか313とか、やたら「3」から始まるものが多いです。
この中で有名なものといえば、陸軍直轄の「第503重戦車大隊」や、あのミヒャエル・ヴィットマンが所属する「SS第101重戦車大隊」があります。
説明書の「s.Pz.Abt.503, France 1944」は、1944年7月ごろの第503重戦車大隊・第3中隊の中隊長車(ヴァルター・シェルフ大尉車)を再現したものと思われます。
砲塔番号は黒で描かれており、縁を白く塗るというもの。
こちらはも300番のキングタイガーですが、先程のシェルフ大尉が乗ってたものとは別物で、迷彩模様や砲塔番号、国籍マークの位置が変わってます。
これは1944年9月ごろ第503重戦車大隊で、中隊長もリヒャルト・フォン・ローゼン少尉に変わっています。
また、この写真はキングタイガーの映像としては有名なドイツ週間ニュース 736号(Die Deutsche Wochenschau 736)の1シーンで、パーダーボルンの訓練場で撮影されたもの。
動画では大量のキングタイガーが登場します。
まとめ
ドラゴンの『キングタイガー(ヘンシェル砲塔)w/ツィンメリット』についてレビューしました。
ツィメリットコーティングの質はもちろん、1994年4~9月ごろに施された仕様変更なども細かくパーツに反映されており、調べていて楽しかったです。
また、エッチングパーツやマジックトラックはもちろん、クリアパーツにシャックルやチェーン、さらには金属砲身や砲弾までも付属するというとても豪華な内容でした。
そしてなによりキングタイガーですからね。最強ですからね。作るのが楽しみです。
次回から製作スタート。転輪や履帯など足回りから作っていきます。