戦車プラモデルのメーカーであるドラゴン(および同社ブランドのサイバーホビー)のキットには、「マジックトラック」という連結式の履帯が同梱されている場合があります。
特徴としては、従来の連結式履帯の多くがランナーに引っ付いた状態になっているのに対し、マジックトラックは最初から履帯(履板)のパーツだけなので、あとは接着して繋げるだけの状態になっている点。
また、連結式履帯共通ですが、軟性樹脂で出来ている「ベルト式履帯」では再現が難しい履帯の重量による「たるみ」を再現しやすいという利点もあります。
一方で成形時に残る「押し出しピン」の跡は履帯に残っているため、この処理をする場合時間がかかるなど、同じ連結式でも従来の連結式履帯とマジックトラックではそれぞれ一長一短あります。
さて、前置きが長くなりましたが、今回は製作中のIV号戦車 J型をつくりながら、マジックトラックの組み立てについてご紹介します。
上述の通り、「マジックトラック」はドラゴンの商標ですが、マジックトラックのような連結式の履帯は多くの模型メーカーが採用しているため、どこかしらで出会うことがあります。
なので、マジックトラックなど連結式履帯の組み立ての予習として読んで頂ければ幸いです。
マジックトラック(連結式履帯)の組み立て方は大きく分けて2通り
マジックトラックをはじめとする連結式履帯の組み立て方は人によって様々ですが、大まかに以下の2通りの組み立て方があると思います。
- そのまま履帯を車体(転輪)に接着する方法
- 履帯と転輪は接着せず、後から取り外せるようにする方法
文章だけではピンと来ないかもしれませんが、通常の組み立て方と、後々の「塗装」を考慮して履帯と転輪を車体から取り外せる「ロコ組み」の2通りがあるわけです。
そのまま履帯を車体(転輪)に接着する方法
上の写真は、タミヤのティーガーIの連結式履帯(マジックトラックではありません)を組み立てた時のものです。
この時は車体シャーシに転輪を接着し、連結式履帯も転輪と接着する方法で組み立てました。
あれこれ小技を使うこともなく組み立てられるので難易度は低いですが、車体の奥まった部分や転輪のゴムの部分の塗り分けなどが困難です。
上のティーガーIは後期型ということで鋼製転輪を使っており、フチをゴム色で塗装する必要がなかったので楽ですが、これがゴムを塗装するIV号とかだったら………。
履帯と転輪は接着せず、後から取り外せるようにする方法
そこで、奥まった部分や転輪のゴム部分を塗装しやすくするために、あえて転輪を車体に接着せず、履帯も転輪と接着しない「ロコ組み」という方法を歴戦のモデラーさん達は産み出しました。
こうすることで上の写真のように履帯や転輪を車体から取り外せて塗装が楽になるのです。先人モデラーさんたちの知恵の結晶ですね西住殿ぉ!
…ただ、このロコ組みは転輪や履帯を外すという行為が伴う関係で、少々コツがいります。素組みに比べると難易度は高め。
ですが、ティーガーやパンターのような複数の転輪を挟み込むタイプの戦車はもちろん、今回のIV号戦車のように、履帯と車体に隙間があるタイプだと奥まった部分の塗装が気になる所。
そういったことから「ロコ組み」は是非とも習得したい技法の一つと言えます。
というわけで今回はこのマジックトラックを「ロコ組み」方式で組み立てて行きます。
マジックトラックの組み立ては「履板の整形」から
そうとわかればマジックトラックをつなげよう! となるところですが、その前に履板の整形からスタートすることになります。
…これがなかなか時間のかかる作業なので、一度にやろうとせず、1日30枚ぐらいを目安にのんびりやっていきましょう。
頑張って履板の「ピン跡」を消そう
履板をよく見ると内側に丸い突起のようなものが2ヶ所についています。
これは成形したパーツを金型から剥がす時に押し出すピンの跡で、プラモを始め様々な成形部品に見られる跡です。
ランナーにパーツがついた連結式履帯だとピンの跡はランナー側に付きますが、履板を単品成形して「ランナー」が存在しないマジックトラックではパーツにピンの跡が残ります。
これがマジックトラックの欠点で、マジックトラックの組み立てはこの押し出しピンの跡を消すところから始まります。
今までは塗装やウェザリングで誤魔化せるのでスルーしていましたが、今回はこの押し出しピンや履板のセンターガイドにあったゲートの処理をします。
押し出しピン跡は、デザインナイフやカッターナイフなどで削いで紙ヤスリで整えるといった方法で一コマ一コマ整形していきます。その数およそ200個!
履板は必要な枚数より3枚ほど多めに用意
…というわけで、まずは片側分のマジックトラックの成形が終わりました。
説明書ではマジックトラックは片側99枚必要と記載されていましたが、接着時における圧着具合によって数が変わるので、念のため3枚余分に作って102コマ用意しておきました。
「ロコ組み」のやり方
履板の成形が終わったので、次はこれらを接着して1つの「履帯」として車体や転輪に巻きつけていきます。
先述の通り、今回マジックトラックの組み立ては後々の塗装を考慮して「ロコ組み」方式でやっていきます。
転輪を接着していないことが大前提
「ロコ組み」の本質は組み立てた履帯や転輪を取り外せるようにすることです。
そのため履帯はもとより、各転輪は車体に接着せず、外せる状態にしておくことが大前提です。
今回も例に漏れず転輪、起動輪、遊動輪、上部転輪などは車体側に接着はしておらず、上の写真のように全て取り外せる状態にしておきました。
用意するもの
ロコ組みをする時に使用した道具は以下の通りです。
- 木の板
- 両面テープ
- 定規
- 接着剤
- マスキングテープ
- ピンセット
それぞれの道具についての解説は組み立てながら行っていきます
マジックトラック用の「治具」をつくる
履帯を作るために履板を1枚1枚接着していきます。
ダイレクトに1つ1つ接着していく方法もありますが、繋げれば繋げるほど長くなって作業がやりづらくなります。
そのため私は履板を全て並べ終わってから接着という手順でやっています。
並べる、接着と2つの作業が発生するので若干時間はかかりますが、このようにすることで以下のような利点があります。
- 最初と最後で接着剤の乾燥の差が少なくなる
- 途中で履帯が切れにくい
- つなげた履板の枚数を忘れない
- 履帯が曲がりにくい
ただ当然ながら、小さな履板を並べるだけではちょっとした振動でバラバラになるため、連結式履帯用に自作した「治具」を使っています。
『自作した治具』というと何だか凄そうに聞こえますが、何のことはない。板に両面テープを貼っただけです。
治具の土台は木の板
連結式履帯を作る時は上の写真のように木の板を治具として使用しています。
ここに両面テープを貼り付けてその上に履帯を並べるわけです。
私は倉庫にあった木の板を使ってますが、
- 平らであり
- ある程度長さがあって
- 作業中に曲がったり折れたりせず
- なおかつ字が書き込める
といったものであれば、スチロールとかプラ板でも治具として使えます。
板の上に両面テープを貼る
この即席治具の上に履板を並べていくのですが、何もせずにそのまま並べたら鼻息で履板が吹っ飛びます。当たり前ですが。
なので板の上に両面テープを貼り、その上から並べていくわけです。
…ただ、両面テープはそのままだと粘着力が強く、履帯を剥がす時に切れやすくなります。
なのでテープのフィルムを剥がしたら布を当てて剥がすを2~3回ほど繰り返して粘着力を弱くしておきます。板を傾けて取れない程度の粘着力があれば十分なのです。
これでマジックトラック用の即席治具の準備が完了です。
治具の上に履板を並べる
では、治具の上にマジックトラックを1枚1枚ならべていきます。
履板は10枚単位で並べており、10、20、30、と板に数字を記入しているため、「あれ? 何枚並べたっけ??」というポカが発生しないようになってます。
また、履板はただ並べるだけでなく、ある程度つなげたらグッと押し付けて履板同士を密着させたり、定規など硬くて平らなものを当てて履帯がまっすぐになるように調整します。
ということで履板を100枚並べました。
サイバーホビーのIV号戦車 J型(中期型)のマジックトラックは片側99枚必要ですが、これはあくまで目安です。密着具合によっては多かったり少なかったりするので、その場合は臨機応変に調整します。
そういったことから念のため1枚多い100枚で設定しました。
履板を接着する
履板を並べ終わったので、次はこれらを接着して「履帯」にしていきます。
接着剤は「リモネンセメント」を使用
接着剤はタミヤセメントなど通常のプラモ用接着剤でも問題ありませんが、今回は「リモネンセメント」を使ってみました。
一般的によく言われるリモネン系接着剤の特徴としては
- 乾燥までに時間がかかる
- より強固に接着される
- シンナーの影響がない
- 塗料を侵さない
というもので、乾燥に時間がかかるので通常のパーツ接着では不向きですが、連結式履帯の場合はこれが大きな利点となります。
連結式履帯の組み立ては、接着剤を塗ってから硬化までの間の”半乾き状態”を利用して、履帯を曲げて転輪に巻きつける作業です。
そういったことから、硬化までの時間が長いリモネン系接着剤は、履板が切れない程度の接着力を保ちつつ、なおかつ曲げられるという丁度いい状態にしてくれます。
また、乾燥までに時間がかかるというのは、逆に言えばよりしっかり定着してくれるということで、最終的な接着力は通常の接着剤より勝るとのこと。
そんでもって、リモネン系接着剤は流し込み接着剤に匹敵する流動性を持っており、履板の接合部にチョンと塗るだけでスーッと浸透してくれる点も選んだ理由だったりします。
履板の接合部に接着剤を流し込んでいく
並べた履板の接合部に接着剤を流し込むようにつけていきます。
「流し込む」というなら「流し込み接着剤を使えば良いじゃないか」と考えるのが人の性ですが、流し込み接着剤だと樹脂が含まれないため接着力が弱く、連結式履帯には不向きと判断しました。
先述の通り、リモネンセメントでも流し込み接着剤に匹敵するくらい流動性があるのでこれで十分。
なお、スーッと履帯の上を一筆書きのように塗る方法もあるかもしれませんが、実際に片側をそれでやってみたら塗りムラがあったのか、あちこちで千切れました。
もっと言うと、接着しなくていいところにも接着剤がつくので、その部分の樹脂が溶けてギトギトのザラザラになってしまいます。面倒くさがらず一個ずつていねいに接着する方が確実です。
履帯を接着したら20分ほど待って接着剤が生乾きになる状態にします。
車体に転輪を「仮組み」する
履帯を接着してから生乾き状態になるまでの20分間、コーヒーでも飲んで休憩をしても良いですが、ここは待ち時間に出来ることをやっておきます。
転輪はロコ組みのために接着していないので、車体から外した状態で保管している人が多いかと思います。
なので、接着剤がいい具合に乾くまでの待機時間を利用して、車体に転輪を仮組みしておきます。
接着しないので、少し車体を傾けるとジャラジャラと転輪が取れてしまいます。この状態で履帯を巻きつけるのは困難です。
なので上の写真のように、転輪や遊動輪・起動輪にマスキングテープを貼って脱落防止用の措置をとっておきます。特にIV号戦車の場合、上部転輪が脱落しやすいのでしっかり固定します。
また、遊動輪は穴と軸がタイトで接着剤が不要なくらいしっかりハマっており、ロコ組みにおいてはこれが足かせとなります。
ロコ組みが終わって「よし外すぞ!」という時にスムーズに外せるようにするため、転輪の軸と穴をそれぞれ削り、外しやすくしておくことも忘れずに。
履帯を治具から剥がす
接着剤が生乾きになったら履帯を治具から剥がします。
ここまでの作業で不備がなければ切れること無く1本の履帯が出来上がります。
剥がすときは根本を持って!
治具の両面テープから履帯をペリペリと焦らずゆっくり剥がしていきます。
この時、履帯は根本を持って剥がします。端っこを持つと負荷がかかって履帯が切れやすくなってしまうからです。
万が一履帯が切れてしまった場合は、焦らずに再度接着します。
もう一度、履帯をまっすぐにする
履帯を切ること無く剥がせた方はおめでとうございます。最初の関門突破です。
ここで車体に巻きつける前に、履帯を上の写真のように立てた状態にして、上から定規など硬くて平らなものでトントンと軽く叩いて履帯がまっすぐになるよう矯正します。
履板を並べている時にも同じことをしましたが、念のため最後にもう一度やっておくのです。
履帯を転輪に巻きつける
さて、次はいよいよ履帯を車体(転輪)に巻きつけます。
仮組みした転輪が落ちないように注意しつつ、同時に履帯が千切れないように車体の隙間を通していくというなかなか注文の多い作業です。
特に上部はフェンダーと上部支持転輪の隙間を縫うように通さなければならないので、場合によっては履帯を引っ張ることになり、切れやすくなるため絶妙な力加減が要求されます。
では、履帯を巻き付けていきましょう。
写真では遊動輪で折り返すように通していますが、先端は起動輪の歯に噛ませた状態で巻き付けていきます。
今回は履帯よりも先にフェンダーや車体上部を組んでしまったため、巻き付けにくい状況にあります。
なので、最初に通しにくい上部支持転輪とフェンダーの隙間に通しておいたほうが良いと思いました。
履帯のセンターガイドが上部支持転輪と噛み合うように通しながら起動輪の方へ持っていきます。
途中で引っかかることがあるかもしれませんが、履帯を無理に引っ張らず、ピンセットなどで動かして引っかかりを取ってやりましょう。
起動輪の歯に履帯の穴を噛み合わせておきますが、ここで起動輪と履帯を接着するかしないかは人それぞれ。今回は起動輪および遊動輪と履帯は接着しました。
起動輪側で履帯の両端を接着する
履帯の反対側も起動輪まで持っていきます。通しにくい車体上部と違っ、接地面側は障害がないので楽に通すことが出来ます。
そして反対側も起動輪まで持っていき、同じように履帯の穴を起動輪の歯に噛み合わせるようにして、履帯の接合部分を接着。
なお履帯の枚数ですが、今回は”あそび”が良かったのか、両側とも説明書通りの99枚でうまく行きました。もし長すぎる or 短いという時は遠慮なく枚数を増減させて調整します。
…でも、3枚以上増減!ってなると巻き方がおかしいので、一度見直しましょう。
なお、その他の転輪は軸と穴がちゃんとあるので定位置に収まりますが、起動輪に限っては軸ではなくわずかな「突起」なので横ズレしやすい状態にあります。なるべく定位置に来るようにしましょう。
履帯にたるみをつけよう
上手く巻きつけることが出来たら、次は履帯の重量感を出すために「たるみ」をつけます。主に上部転輪の真上や、上部転輪の間に丸めたティッシュを噛ませて形を作ります。
なお、IV号戦車の履帯というと、上部転輪を通る部分を”波々”にするイメージがありますが、実物写真を見てみると案外それほど波打ってなかったりします。
特に今回のIV号戦車 J型はまだ上部転輪が4つなので、1944年12月以降の上部転輪が3つになった車輌と比べても履帯の波はそこまで激しくないと思います。
ただ、一方で履帯が古くなってピン穴がユルユルになってる場合は波打ってしまうかもしれませんし、一概には言えないと思います。この辺りは実車の写真を参考に調整しましょう。
また、上部転輪だけでなく起動輪や遊動輪から転輪(地面側)に向かう真っ直ぐになる部分も忘れずに。上部転輪は最悪シュルツェンで隠せますが、こちらはシュルツェンがあっても見えるので入念に。
いい具合に履帯の形が出来たら、外れないようにマスキングテープで固定して接着剤が固まるのを待ちます。
履帯を外してみる
ある程度時間を置いて接着剤が硬化したら、試しに履帯や転輪を外してみます。ここで問題なく取り外すことができればロコ組み成功です。ばんざーい。
ドキドキしながら外してみたところ、何とか写真のように上手いこと外れてくれました。ばんざーい。
理想のロコ組みは転輪一式と履帯が完全に分離した状態にすることですが、着脱する関係で履帯と転輪の完全分離はなかなか難しいです。
なので今回は遊動輪と起動輪、そして上部転輪は履帯に接着することにしました。
当初は遊動輪と起動輪だけでしたが、外した履帯をもう一度車体に戻す時に上部転輪がセンターガイドに引っかかって取りつけに苦労したので、上部転輪も接着することにしました。
極論を言うとIV号戦車に限っては転輪を挟み込むタイプでないため、全ての転輪を履帯にくっつけてもそれほど支障をきたすことは無いかなと思います。
履帯・転輪は車体に取り付けた状態で保管すること
無事にロコ組みが成功し、ホッと一息つきたくなるけどちょっと待って。
転輪や履帯は車体に取り付けた状態で保管するのを忘れないで下さい。
というのも、接着剤は完全硬化まで1週間ほどかかります。その間も硬化が進んでパーツが縮んでいきます。
そういったことから、外したまま放置すると硬化後に縮んで転輪の穴と軸が合わなくなるおそれがあります。
それを防ぐために、転輪と履帯は車体に取り付けた状態で保管しておきましょう。
ロコ組みとC組みの違い
マジックトラックをはじめとする連結式履帯を組む上で、後の塗装のために取り外せるようにする方法は今回紹介した「ロコ組み」のほかに「C組み」というものがあります。
いずれも塗装のために履帯を外せるようにする点は同じですが、C組みの場合、履帯を転輪に一切接着すること無く、同時に履帯の両端も接着しないというものです。
遊動輪で折り返し、起動輪の部分まで持っていくけど、起動輪で履帯の両端を接着しないことでアルファベットの「C」のような形になり、そこから「C組み」と呼ばれるようになったみたいです。
このC組みの特徴としては、転輪ごと外すロコ組みと違い、転輪一式を車体に接着しても履帯だけは外せるという点にあります。
また、転輪ごと外すロコ組みは地面に対して水平に外すのに対し、C組みは地面と垂直になるように外すという点も異なります。
両者のメリット・デメリットを理解した上でロコ組みかC組みかを選びましょう。
無事にマジックトラックの組み立てが終わりました
今回はマジックトラック(連結式履帯)を組み立てました。
ロコ組み方式でやるなら、車体が完成させてからではなく、車体上部やフェンダーなどを取り付ける前にやっておいた方が楽です。
しかし履帯(履板)の整形やら何やらで時間がかかってしまため「後で良いや」と逃げてしまい、車体上部やフェンダーの隙間に履帯を通さなければならず、結局難易度を上げているという(苦笑)
なので、面倒臭がらずに早めに連結式履帯は取りかかったほうが良いと思います。
さて、次はいよいよ後期のIV号戦車の特徴である「シュルツェン」を作ります。もう少しでこのJ型も完成だ…!