前から作りたいと思ってたタミヤの「Ⅳ号駆逐戦車 /70(V)ラング」のプラモデルをついに入手したのでのんびり作ろうと思います。
この記事では
- モデルとなったドイツの駆逐戦車「IV号戦車/70(V)」の紹介
- 購入したタミヤのプラモデル「IV号駆逐戦車 /70(V)ラング」のレビュー
といった内容をまとめました。
ただ付属品を見るだけでなく、実物車輌の特徴と照らし合わせながら形状の違いなどを解説するので、タミヤのラングの仕様について知りたい方の参考になりましたら幸いです。
↑タミヤのラング製作記事はこちらのカテゴリーに追加していきます。
モデルとなった車輌「IV号戦車/70(V)」について
まずはじめに、今回購入したタミヤのラングの元ネタとなった車輌である「IV号戦車/70(V)」について説明します。
IV号戦車をベースに開発された駆逐戦車
「IV号戦車/70(V)」は第二次世界大戦中のドイツの主力戦車「IV号戦車」をベースに開発した駆逐戦車です。
IV号戦車の車体に密閉型の戦闘室を搭載し、そこに「パンター」と同等クラスの主砲を搭載。上の写真を見て分かるように、平ぺったい車体に長く突き出た70口径の砲身が特徴。
写真では前2つの転輪はゴム縁になっているが、実際はノーズヘビー(フロントヘビー)対策としてゴムが内蔵された「鋼製転輪」を使用しています。
当初は「IV号駆逐戦車」として開発が進められ、試作型の「IV号駆逐戦車 0シリーズ」を経て、「IV号駆逐戦車 F型」が1943年12月より生産されます。
こららはIV号戦車と同じ砲身長の「7.5cm Pak39 L/48」を搭載していました。
その後、IV号駆逐戦車の開発計画の中に「70口径砲」を搭載する計画が追加され、1944年7月ごろからIV号駆逐戦車 F型と並行してIV号戦車/70(V)の生産が開始されました。
当初「ラング」という名称が入っており、「長い(長砲身)」という意味で、48口径搭載型と区別するために付けられました。
しかし、これでは通常のIV号戦車の長砲身みたいで紛らわしいので、後に「/70」と口径名に変更。
パンターに匹敵する主砲「70口径 7.5cm Pak42」を搭載
「IV号戦車/70(V)」は砲塔が無いので照準を合わせるのに車体ごと傾ける必要がありますが、その反面「パンター」に匹敵する強力な主砲「7.5cm Pak42 L/70」を搭載しています。
70口径の7.5cm砲は高い初速と貫徹力をもち、ティーガーIの主砲『8.8cm KwK 36』を上回っていたと言われてています。
この強力な主砲はソ連の「IS-2」を除く、連合軍のあらゆる主力戦車を2,000m遠方から撃破することができました。
フォマーク社とアルケット社が生産した
70口径の「7.5cm PaK42」搭載のIV号駆逐戦車は、製造している会社によって2パターンあります。同じコーラでもコカコーラとペプシコーラがあるみたいに。
1つはフォマーク社が生産したIV号戦車/70(V)で、フォマーク社の頭文字である(V)という表記が車輌名に入っています。
もう1つは3号突撃砲を作っていたアルケット社が生産したIV号戦車/70(A)。こちらも頭文字である(A)が車輌名に入ってます。
上の写真を見るとフォマーク社製よりもアルケット社製のラングの方が若干、車高が高くなっているのがわかります。
フォマーク社製ラングおよびIV号駆逐戦車(F型、0シリーズ)は、シャーシはIV号戦車ですが、車体下部前面は「く」の字になった新規形状になっています。
対するアルケット社製のラングは「IV号戦車 J型」の車体にそのままフォマーク社の戦闘室に似たものを搭載しており、若干車高や容積が増えているのが特徴。
その分重量も増えているので、転輪の前半分が「鋼製転輪」となっています(フォマーク社は前2つだけ)。
駆逐戦車なのにIV号”戦車”?
「IV号戦車/70(V)」のややこしいところはその名称にあります。
というのも駆逐戦車であるにもかかわらず、実際の名称は「IV号戦車/70」とあり、海外表記もJagdpanzer(駆逐戦車)ではなくPanzer(戦車)である点。
48口径搭載型は「IV号駆逐戦車」なのに、70口径搭載型からは何故か「IV号”戦車”/70」に変わっています(しかもタチが悪いことに”戦車”表記になった理由は不明という…)。
普通に考えて「IV号”戦車”/70」なんて表記にしたら、駆逐戦車じゃなく「戦車型の70口径バージョン」って間違えやすいですよね…。
タミヤ 「Ⅳ号駆逐戦車 /70(V)ラング」 レビュー
ざっくりですが実物車輌の紹介をしたので、続いてはタミヤの「Ⅳ号駆逐戦車 /70(V) ラング」のキットのレビューに入ります。
今回作るのは「フォマーク社」の方のIV号駆逐戦車/70(V) ラングです。
アルケット社の方の「ドイツIV号駆逐戦車/70(A)」もタミヤから2023年5月に販売されています。そっちもいつか作れたらいいなぁ。
タミヤのラングは1976年7月に発売された旧ラング(No:35088)と、2014年11月22日に発売された新ラング(No:35340)があり、今回は新ラングの方を購入。
2014年版の新ラング(No:35340)の特徴は、博物館での実車取材により”完全新設計”でモデル化されており、また金型も新規のものを使用しているとのこと。
キットには装填手と車長の半身フィギュアも付属。キット単体だけでも臨場感あふれるラングが作れます。
開封して中身を取り出してみるとこんな感じ。
パーツランナーが入った袋が3点、上下の車体、説明書などの冊子が3点、その他履帯やデカールといった小物パーツ…などなど。
それでは付属品を見ていきましょう。
組み立て説明書や資料
まずこちらは組み立て説明書。
1セクションあたりの情報量が少なく分かりやすい内容となっているのはもちろん、使用するツールや塗装指示、オプションアイテムの紹介なども記載されています。読んでて楽しい。
こちらは一緒に同梱されていた「組み立てワンポイントアドバイス」というA4サイズの資料。
プラモデルの組み立てに必要な基本テクニックについて記載されています。
プラモデル初心者は、プラモ製作で必要な道具とその使い方について予習しておくことをオススメします。
【超初心者向け】戦車プラモデルで使用した道具と使い方まとめでは組み立て、塗装、ウェザリングなど各セクションごとで必要となる道具について解説しています。
同じく同梱の「バックグラウンドインフォメーション」という冊子。ラングがどういった車輌なのかについて解説されています。
冊子を開くと塗装例や実物車輌の写真(おそらくアメリカ陸軍兵器博物館に展示されているもの)もあります。これ読んでるだけも楽しくなります。
車体パーツ
こちらは車体下部パーツ。
従来のIV号戦車と同様にバスタブ状のパーツとなっており、ここに転輪を中心としたパーツを取り付けていきます。
また底部の前後には六角形の突起がありますが、ここにはディスプレイケース内に固定するための六角ナットを埋め込めるようになっています。
左側面から撮影。
まず目についたのは上部支持転輪の基部。タミヤのラングでは上部支持転輪が3つに減らされたタイプを再現しています。
これは生産の簡略化を目的としたもので、「IV号戦車 J型」では1944年12月から実施されましたが、IV号駆逐戦車(F型およびラング)の場合、10月初めの生産車輌で上部支持転輪が3つになったとのこと。
今まで様々なIV号戦車(および派生車輌)を作ってきましたが、上部支持転輪が3つになったタイプは今回が初めてです。履帯のたるみとかどうなるのか楽しみです。
こちらは側面装甲板の一部を延長して穴を開けた簡素な牽引装置。
IV号戦車(J型)でも1944年12月以降から牽引装置を廃止して、代わりに側面装甲板の一部を延長して穴を開けた簡素なアイプレートに変更しています。
ただ、車体の形状が異なるのでアイプレートの形状も戦車型とは異なります。
こちらは車体上部パーツ。
駆逐戦車の特徴でもある「固定式戦闘室」は1つの大きなパーツで構成されているため、戦車タイプよりも大幅にパーツ数が抑えられています。
また、旧ラングよりも装甲板を組み合わせた部分や各種モールドがしっかり再現されています。
戦闘室を中央から見るとこんな感じ。
写真ではわかりづらいですが、戦闘室の前面装甲板が60mmから80mmに強化されたことによる段差もちゃんと再現されています。
車体の最先端には出っ張った部分がありますが、ここには傾斜装甲版を取り付ける基部であると同時に、車体下部に差し込めるようになっており、接着剤を使わず上下車体を結合できるようになっています。
これはタミヤのラングの特徴の1つであり、上下車体が着脱式になることで塗装が非常にやりやすくなるという利点があります。
パーツランナー
続いてパーツランナーも見ていきます。
タミヤのプラモデルは初心者でも作れるようにパーツ量が抑えられていますが、その中でも駆逐戦車はさらにパーツ数が少なく、パーツランナーは4点と少ない。
このパーツランナーも気になった部分を見ていきます。
まずこちらは固定式戦闘室の天蓋やフェンダーといった比較的大きなパーツがまとまったランナー。
大きいパーツに埋もれがちですが、中央には兵士フィギュアのパーツもあります。…今回は頑張ってフィギュアも作ろうと思います。
こちらは転輪パーツ。
ラングの特徴の1つに前部の転輪2つを「鋼製転輪」に変更しているという点があります。これは「ノーズヘビー」対策として導入されたものです。
パンターの主砲に相当する「70口径 7.5cm PaK42」を、パンターより小さいIV号ベースの駆逐戦車に、しかも「カルダン枠砲架」という前面装甲板に結合する形で搭載するわけですから重量が車体前方に偏ります。
そのため鋼製転輪をはじめ、様々なノーズヘビー対策がとられることになりました。
こちらは上部支持転輪。
先述の通り、70口径になる前の「IV号駆逐戦車 F型」の生産途中(1944年10月頃)から転輪の数が3つに減らされています。
そんな上部支持転輪もいくつかバリエーションがあり、タミヤのラングではハブキャップが3個のボルトで固定されるタイプを再現しています。
遊動輪は「パイプ型」を再現。
「IV号戦車(H型~J型)」では1943年10月頃から鋳造タイプの遊動輪が使われますが、IV号駆逐戦車ではF型・ラング共にはほぼ全ての車輌でパイプ型遊動輪が使われていたとのこと。
ただ例外として、1945年2~3月生産車ではストックの関係で一部車輌で鋳造型の遊動輪が使われていたそうです。
こちらは主砲「7.5cm PaK42 L/70」の砲身。
1ピースで再現されているので「合わせ目」を消す作業が不要だし、ゲートの位置も砲身の両端にあるので追加加工はほぼナシ。
なお、48口径のIV号駆逐戦車 F型では砲身の先端に「マズルブレーキ」が付いていましたが、1944年4月頃からマズルブレーキが外されるようになりました。
撤去の理由としては、”砲撃時に砂埃を巻き上げて視界不良になる説”がよく言われていますが、その他にもノーズヘビーを抑えるため(こちらの方が濃厚?)という理由があげられます。
当然さらに重くなったIV号駆逐戦車/70(V)でもマズルブレーキは廃止されています。
こちらは砲身防盾パーツ。
キットでは鋳造特有のザラザラした表面も再現されています。また、その右横には「ザウコップ(豚の鼻)」と呼ばれていた外装式の防盾もあります。
戦闘室内部に台座を組んで主砲や砲架を収めていた従来の突撃砲や駆逐戦車と異なり、IV号駆逐戦車は「カルダン枠砲架」という、戦闘室の前面装甲板に直接結合するという新方式を採用。
このカルダン枠砲架よって車内スペースを広く確保出来るようになり、また重量低減やコスト・生産面にも優れていたとのことです。
その反面、重心が中央ではなく前方寄りとなり、先述の「ノーズヘビー」の原因になりました。
また、この防盾は基部の下方が斜めにカットされています。
これは1944年4月に通達が出され、先述の「ノーズヘビー」を少しでも低減させる手段の1つとして行われたそうです(この程度でノーズヘビー低減になるのか?って思うところではありますが…)。
こちらは車体後部のエンジンデッキに取り付けられる「ラジエーター」の冷却水注入口のカバー。
従来型では台形のように傾斜した形をしていましたが、生産簡略化のため1944年6月ごろから装甲板を垂直に組み合わせた形のものに変更されました。
ちなみにIV号戦車(J型)では同様の変更が1944年5月に行われたため、1ヶ月遅れの変更となります。
デカール
こちらはデカール。
おなじみの鉄十字マーク(国籍マーク)と313、322、103と書かれた車輌番号がそれぞれ用意されています。
付属の「バックグラウンド・インフォメーション」によると、
- 322:第655重戦車駆逐大体所属 322号車 西部戦線 1944年12月
- 313:所属部隊不明 313号車 西部戦線 1944年12月
- 103:所属部隊不明 103号車 東部戦線 1945年 初冬
とのことです。
あと④のデカールは、車体後部の機関室上に装備されている「消化器」のラベルのようです。これは細かい。
ポリキャップ
こちらは転輪や車体パーツに埋め込む「ポリキャップ」。
こちらもタミヤのラングの特徴であり、このポリキャップのおかげで上下車体や転輪は接着剤を使わず取り付けることができ、必要に応じて取り外せるようになっています。
そのおかげで塗装のときに転輪のゴム部分や奥まった部分が塗りやすくなります。
履帯は軽量タイプを再現
こちらは履帯。組み立てが簡単なベルトタイプが付属します。
履帯は接地面が肉抜き加工されて軽量化された、いわゆる「最後期型」仕様。
IV号駆逐戦車(F型・ラング)では1944年9~10月ごろの生産車からこのタイプの履帯を使用するようになったようです。
オプションの「メタル砲身セット」も一緒に買ってみた
IV号駆逐戦車/70(V) ラング専用のオプションパーツとして、同じタミヤから「メタル砲身セット」が発売されています。
金属なので耐久性が高いのはもちろん、砲身の長いIV号駆逐戦車/70(V) ラングなので、金属砲身にすればよりリアルになると思って一緒に購入しました。
なお、金属砲身のほかに砲尾や装填部のパーツも付属するので、本来なら戦闘室で隠れてしまう部分も再現でき、内部の密度感を高めることができます。
ただし、砲尾パーツを使うとキット付属のフィギュアが使えなくなるので注意。どうやら砲尾パーツ後端がフィギュアと干渉し、砲身の動きが妨げられるようです。
そのため、今回はメタル砲身だけを使い、内部構造はラング本体キットに付属するものを使用してメタル砲身とフィギュアの両立を図ろうと思います。
こちらも気になる部分なので、製作過程において確認・検証する予定です。
「IV号戦車/70(V)」の呼称について
タミヤのキット名は「IV号駆逐戦車/70(V)ラング」ですが、先述の通り実物車輌では「IV号戦車/70(V)」という名称となっています。
70口径を搭載することで名称が「駆逐戦車」から「戦車」に変わり、「IV号戦車 ●型」のバリエーション?ってなりますよね。
この”70口径砲を搭載したIV号駆逐戦車”の名称については何種類かあるそうですが、今回参考にした『グランドパワー 2013年5月号』によると、
『PT※』では1944年8月における審査部の70口径 7.5cm 砲 Pak42 搭載 IV号戦車ラング(V)と、同じく審査部の11月~1945年3月のIV号戦車/70(V)、そして1945年1月22日付のK.A.NにおけるIV号駆逐戦車/70(V)の3種のみとなっている。
※PT:PANZER TRACTS No.9-2『Jagdpanzer IV, Panzer IV/70(V) and Panzer IV/70(A)』
といった記載があり、「駆逐戦車」という表記でも間違いでは無く、またタミヤのキット名は1945年1月22日付のK.A.Nの名称を採用しているのがわかります。
ただし、先述の通り『IV号駆逐戦車』だけでは試作型の「0シリーズ」や48口径の「F型」を指すこともあります。
なので70口径の方を「IV号駆逐戦車」と記載する時は「/70」とか「ラング」を入れておくと間違えないと思います。
メディアやプラモデルでは「駆逐戦車」表記をよく見かける
戦車アニメ「ガールズパンツァー」や戦車ゲームの「WoT」、そしてタミヤ以外のプラモメーカーでも「IV号駆逐戦車」あるいは「Jagdpanzer IV」といった表記をすることが多いです。
私もこの車輌を作ろうと思った時に、ブログ上での表記を「IV号戦車 /70(V)」にするか「IV号駆逐戦車/70(V) ラング」にするか迷いました。
とりあえず「駆逐戦車」で、なおかつ「長砲身」で、そんでもって「フォマーク社の方」ってことが分かれば良いや…という感じで「IV号駆逐戦車/70(V) ラング」という名称を使用することにしました。
次回から製作に入ります!
今回は第1回目ということで、タミヤのラングの内容や実物車輌についてレビューしました。
タミヤのキットなので説明資料が充実していたり、パーツ数が抑えられていて初心者でも簡単に手が出せる反面、しっかりその車輌の特徴も押さえており、戦車マニアもニッコリな内容です。
またIV号駆逐戦車/70(V)は純正オプションパーツとして「金属砲身」が販売されているのでモチロン購入。作るのが楽しみです。
ということで前から作りたいと思っていたラングの組み立てを次回からやっていきます。